河野鷹思のグラフィック・デザイン

河野鷹思のグラフィック·デザイン-都会とユーモア

戦後日本のグラフィック·デザインは、工業社会の高度な発展を背景に、インダストリアルデザインとともに巨大な世界を作り出しました。そこでは様々な表現が行われましたが、ともすれば機械主義、効率一辺倒の大量生産主義によって、画一的で没個性的なデザインや、またその反動で伝達内容とは全く無関係の単なる絵画としてのポスターデザインなどが横行し、それがあたかもデザインの主流を形成したような観さえ呈しています。しかしこのような両極端のデザインに対して、時流に与しない個性的で、強靭な意志と様式を打ち出したデザイナーがいたことも事実です。その代表的な一人が河野鷹思(本名·孝1906-1999)です。

彼は1929年、東京美術学校(現·東京藝術大学)を卒業すると、松竹キネマ(現·松竹)宣伝部に所属し、映画広告表現を刷新します。また、日本におけるエディトリアル·デザインの嚆矢とされる雑誌『NIPPON』の制作や、「日宣美(日本宣伝美術会)展」、「グラフィック’55」といった戦後のグラフィック·デザインの主要な展覧会に参加し、その発展に重要な役割を果たしました。その作風は、日々進展する新しい生活とその根底に流れる日本の伝統的な感性が融合され、しかもそれを柔らかいユーモアたっぷりのスタイルの中に巧みにとけこませた、周到な仕掛けによるものです。こうした彼の仕事は、戦後の潮流-グラフィック·デザインの没個性化、絵画化に対する鋭い批判ともなっています。本展では、約100点の作品を通して、河野の業績を回顧しつつ、グラフィック·デザインの本来の精神について考えていきたいと思います。

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