青空

うらぶれた風景の中に潜む鋭利な凄み。うだるような夏の話なのに、冷たく凍てついて底光りするものがある。観る者の欲望をかきたてるどころか、むしろ感情の冷却装置としてはたらこうとしているかに見える佇まいが、かっこよすぎる!おかげて私たちは夢中で狂わされてしまう。
成人映画館のお客さんは辟易しただろう。暗めのナレーションがぼそぼそとつづき、それはすべての濡れ場にさえ、異化するようにかぶさり、喘ぎ声をかき消し、気分を盛り下げる。いちばん目に残るイメージは、女体ではなく、えんえんと走る若者だ。シャブの手入れを逃れて夜明けの海までを一晩中走り、鍍金工場の夜勤を終えて朝の土手を走る。その時彼の内部に、静かに熱く高揚する狂気があるが、それは、持続するナレーションの低体温の中で、決して突出しない。
それ以外のシーンもすべて突出しない。きらめく夏草の中で椅子に腰掛けて性器を舐めさせる女。まっしろなユニフォームでバットを振り下ろす少女。万年床で「成長」という詩を繰り返しつぶやく男。へたくそな俳優たちを執拗に捉えて離れない長回しのキャメラ。殺したいほど憎んでいたわけでも離れられないほど熱愛していたわけでもない女を殺し、とてつもない理由を口にする男。死体処理にてこずったあげくどうでもよくなって、首をぶら下げて町をさまよう男。どれも怖いほど心に刺さる。だがどれも突出せず、ますます画面を低温化してゆくだけだ。
そんなふうに残酷に、サトウトシキと小林政広は私たちの情動や共感を禁じる。いっさいの贅肉も、甘えも、媚びもない、純化された静謐の光の結晶のような美しさを見せながら、共感を禁じる。そして、恋焦がれつつ拒否される私たちが、その苦しさに耐え切れなくなりかける瞬間、あたかも映画がふいにやさしく私たちの恋を受け止めてくれたかのように、奇跡のラストが輝いて広がる。石原郁子(映画評論家)

監督: サトウ トシキ
音楽: Isao Yamada
映画脚本: 小林政広
編集: 金子尚樹
プロデューサー: 森田一人、 朝倉大介、 衣川仲人

YEAR
2000
GENRE
映画
SIZE
A4
TASTE
イラスト
COLOR
GRAY

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